海のなかは音の世界 3

海底捜索の切り札  サイドスキャン  ソーナーの話

これまで2回にわたって、海中の音波についての基礎知識を紹介してきましたが、今回からは、いよいよソーナーについてお話します。まずは海底探査などで活躍する「サイドスキャンソーナー」についてです。 このサイドスキャンソーナーは、広い海洋で特定の対象物を見つけるために使われています(写真1)。

     

          写真1 サイドスキャンソーナーで得られた音響画像の例

                                    (出典:Sound Underwater Images

 

左上の記録では、南米チリの沖合の海底に3隻の難破船が横たわっている様子を示している。

右上の記録は、米国ニューイングランド地方で人が居住していて水浸しになった谷の構脚橋、道路、川底を示している。

音響ビームを横に向けて高性能を実現させた

 従来のソーナーは、海の深さを測ったり魚の群を見つけたりするもので、船の真下の情報しかとらえられませんでした。サイドスキャンソーナーは、そんなソーナーの考え方を根本から変えてしましました。現在使われている高い周波数帯のサイドスキャンソーナーの基になった実験は、1963年に米国 EG&G社のH. エジャートン博士が最初に行ったといわれています。博士は、海底の泥に埋もれた「ビンヤード」という難破船を発見するために、新たに設計した「サブボトムプロファイラー」(海底下地層記録装置)のトランスデューサの音響ビームを探索船の下の方向ではなく横の方向に向けられるようにしました。実際に、見事に「ビンヤード」を発見したのですが、実はこの音響ビームを横に向けたことが「コロンブスの卵」的な発想であり、サイドスキャン(横方向走査)の名前の由来にもなっています。

 たとえば、飛行機が墜落して水中に沈んだりしたときには、最初に捜索チームが墜落現場でこのソーナーを使い、その位置を正確に求めます。また、海底画像の作成も容易にできるため、地球物理の研究者をはじめ、考古学者が興味を持つ難破船や文化遺跡の探索にも役立ちます。最近では、比較的価格が安い製品も売られるようになったので、一攫千金を夢見る海洋トレジャーハンターたちの必須アイテムにもなっています。

  図1 サイドスキャンソーナーによる海底画像の作成(砂のリップルが連なる海底)

                               (出典:Sound Underwater Images)

 図1のように、トランスデューサアレー(注1)を曳航体にのせて海上の船からワイヤーで吊し、横方向に音波ビーム(ファンビーム)がでるように、海中をできるだけ一定方向に一定の水深で曳航します。曳航中は、トランスデューサから規則正しい間隔で音響パルスが発信され、海底の凹凸にぶつかって戻ってくる受信信号の時間遅れから距離を計算し、信号の強さを記録します。この反射信号の受信は、次のパルスが送信されるまで続けられ、次のパルスが送信されると、またこのサイクルが始まります。1回のパルスによって海底から戻ってくる反射信号は、1本の線として記録器に表示され、この線の暗い部分と明るい部分が、時間に対応した反響の強弱を表します。何百本もの線でできているテレビ画面と同様に、1本の線だけを見たのでは意味のある情報は得られませんが、このプロセスを毎分数十回も繰り返すと、次第にディスプレーに並んでくる線は面となって、意味のある画像を形成することになります。このように作られる画像をソノグラム(音響画像)といいます。図1から分かるように、音響ビームを狭くするほど進行方向の細かいところまで区別できるようになります。

               図2  パルス幅による分解能の違い 

                (出典:Sound Underwater Images)

また、図2のように音波のパルス幅(送信時間)を短くする(送信時間毎秒0.1ミリではパルス幅15cm)と横方向の細かいところまでわかるようになります。

          

                    図3 受信信号とシャドーゾーン

                   (出典:Sound Underwater Images)

 図3のように、海底の突起物にパルスが当たるとその後方には音波が到達しないため、音波の影(シャドーゾーン)ができ、この影の長さから、突起物の高さや大きさを推測することができます。理論的(スネルの法則)には、平らな鏡面に斜めに当たった波のエネルギーの大半は、反対側に行ってしまうため受信ができませんが、現実の海底は鏡のようなものではなく、泥や砂の粒で構成されており、細かな凸凹があります。したがって、それらに当たった音波は、相当弱くはなるものの必ず戻ってくるため受信できるのです。しかし、図1のように、中心付近は送信パルスが真上付近から当たるため、信号は強いのですが、音波の影ができにくく空白になってしまいます。 

海底探査で活躍するサイドスキャンソーナー

 さて、ソーナーで探知できる距離は、使う周波数によってほぼ決まってしまいます。高い周波数の音響エネルギーは、海水中を進む間に弱くなってしまいます(注2)。サイドスキャンソーナーの一般的な周波数である100kHzのパルスは、0.5km程度の探索を行うのに適して(対象物は数cm以上)います。しかし、1970年代に製作された英国の「GLORIA」では、減衰の少ない6kHz付近の周波数帯を利用しているため、深海域において最大両側で60km(ただし、対象物は約45m以上)もの調査を行うことができます。米国地質調査所は、これを使って自国の経済水域のほとんどを探査しました。

 海洋研究開発機構(JAMSTEC)でも、20年以上前からサイドスキャンソーナーの開発を行ってきました。独自に開発した60kHzの装置は、無人探査機「かいこう」やディープトゥシステム(写真2)に搭載されており、沈没船「ナホトカ」や「対馬丸」(図4)の捜索、墜落したH-Uロケット8号機の探索に活躍し、大きな成果を挙げました。 

 

 

 

写真2 ディープトゥ ・ソーナーシステム

 実際にサイドスキャンソーナーによって得られた海底画像には、いろいろな歪みや誤差が含まれています。しかし、最近のサイドスキャンソーナーシステムでは、パソコンにパッケージ化された高度な画像処理ソフトが付属しており、使い方に慣れさえすれば、比較的簡単にきれいな海底画像をつくることができるようになりました。

 図4(1) 「対馬丸」同型船の写真

4(2) サイドスキャンソーナーで得られた「対馬丸」と思われる音響画像

4(3) 音響的な影の部分を抽出し縦横比の補正を行った船影(長さ約140m)

4(4) 無人探査機「ドルフィン3K」により確認された船名(旧漢字)

1 トランスデューサーアレー

サイドスキャントランスデューサーの能動素子は、電界の影響によって拡大または収縮する圧電磁器のプレートである。多くのトランスデューサを正しい形に一列に並べ電気接続してアレー(配列)形成すると、薄い扇のようなビーム(ファンビーム)を送・受信することができる。通常、100kHzのような周波数のシステムでは、アレーの長さは1mほどで、ビーム幅はおおむね約1度くらいである。アレーは、背面に音波を反射する空気層や金属板を接着したのち、ウレタンなどでモールドされる。電圧がプレートに加えられると、プレートの形状が変化し、ウレタンの表面に接触した水に圧力波を伝え、それによって音波パルスの発信を開始する。反射された反響が振幅の小さい圧力波の形で海底から戻ってくると、アレーにぶつかり、プレートの形状をわずかに変化させると、電気信号に変換されて受信信号となり、増幅されて記録される。

2 ソーナーと使用周波数の関係

現在、サイドスキャンソーナーなどのアクティブソーナーで使われる周波数と探知距離の関係は、概略値で以下のよう考えればよい。

周波数 波長 探知距離(概略)
100Hz   15m 1,000km以上
1kHz  1.5m  100km以上
10kHz 15cm 10km
25kHz 6cm 3km
50kHz 3cm 1km
100kHz 1.5cm 600m
500kHz  3mm 150m
1MHz  1.5mm  50m